大判例

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福岡地方裁判所小倉支部 昭和46年(ヨ)301号 判決

申請人

井手輝行

右代理人

中村経生

被申請人

株式会社高田工業所

右代表者

高田寿夫

右代理人

水崎嘉人

主文

本件申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

第一、申請の趣旨

一、申請人が被申請人に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二、被申請人は申請人に対し昭和四六年七月二一日以降、本案判決確定に至るまで、金三万円を毎月賃金支払日に支払え。

三、申請費用は被申請人の負担とする。

第二、申請の理由

一、当事者

被申請人は北九州市に本社を置き東京に支社を設け、全国主要工業地帯十数ケ所に営業所を配置して、各種工業装置の設計製作、据付、保全等の工事を営む会社であり、申請人は昭和四六年四月九日中途採用の技能社員として、月額賃金三万円の約にて、被申請人に雇用されて電気熔接部門の業務に従事し、同年七月末日をもつて試傭期間が満了する予定のものであつた。

二、解雇及びその理由

申請人は、昭和四六年七月二一日、被申請人から、申請人が社員として不適当であるから社員就業規則第六条第四項に基き同日付にて採用を取消す旨の解雇通告を受けたが、被申請人のいう主な解雇理由は左のとおりである。

(一)  申請人は当時なお佐賀大学理工学部在籍中の学生であり、本採用はもとより試用の対象者としても不適格であること。

(二)  申請人は履歴書及び入社試験の面接において高校卒業後の経歴、殊に佐賀大学に入学し現に同大学在籍中であることを故意に秘匿し、高校卒と学歴を低次に偽つたのみならず住居についても伯父の家に同居している旨虚偽の申告を敢てして被申請人を欺罔したこと。

(三)  入社後においても、被申請人の再三の居住先調査に対し、現住所についての従前の虚偽の主張を頑固に更めない等不信義な態度を継続したこと。

三、解雇の無効

しかしながら被申請人には申請人を解雇すべき事由は全くないから、右解雇は解雇権の濫用として無効である。すなわち、

(一)(イ)  申請人の身分について、成程申請人は昭和四四年三月長崎県立北高等学校を卒業し、同年四月佐賀大学理工学部に入学し、被申請人会社に入社当時同大学になお在籍していたことは間違いないが、(ロ)申請人は当時既に大学生活の意思を失つて事実上退学し、翌四五年一二月下旬頃佐賀市から北九州市に職を求めて転住したのみならず、昭和四六年六月二日には右大学宛退学届を郵送提出していることからも明らかなとおり、右学籍の形式的残留に拘らず、申請人は実質的には学生に非ず労働の意思と能力を有する一個の社会人であるから、被申請人に雇用さるべき身分に欠けるところはないというべきである。

(二)(イ)  経歴詐称について、申請人は履歴書及び入社試験の面接において確かに大学籍残留の事実を秘し最終学歴を高校卒と低次に詐称し且つ現住所を伯父の家に同居している旨虚偽の申告をしたが、(ロ)右は、学歴については、大学における学生運動歴が発覚することにより不採用となることを怖れる余りに止むをえず採つた措置であり、真実申請人が高校卒の資格において電気溶接技能を習得する意欲を有したことに一分の偽りはないのであり、また、住居の点については、被申請人会社が身元不確実な県外出身者は原則として会社寮に入寮せしむる方針であることを知り、自由時間欲しさに知人で近くに居住する日中友好協会商社員渡辺秀夫を伯父と詐称したまでのことであり、いずれも被申請人との信頼関係を破壊し企業に対し実害を与えるべき性質程度のものと目すべきではない。

(三)  申請人入社後の態度について、被申請人は申請人の住所調査に対処する態度が不信義である旨主張するが、右住所調査は簡単な調査が唯一度あつたにすぎず、申請人は格別気にも留めず、従つて被申請人に対し殊更不信義な態度をとつた覚えは全くない。

以上(一)ないし(三)の次第で、申請人の言動は合理的な企業体制ないし雇用関係の秩序維持上なんらの支障を来すべきものでないに拘らず、被申請人は、申請人が嘗て学生運動ないし日中友好運動に関与し、また入社後北九州労働組合に加盟した等の事実を知つて被申請人にとり好ましからざる思想、信条の人物として之を排斥することを真の目的とし、そのため、或は事実を歪曲し、或は些事を把えて不当に解雇事由を捏造したものであり、その解雇は解雇権の濫用以外の何者でもなく無効である。<後略>

理由

申請人主張の申請理由第一、第二の事実及び第三項(一)(二)の各(イ)の事実は当事者事者間に争いがない。

ところで申請人は解雇は解雇権を濫用したもので無効である旨主張するのに対し被申請人は当然の権利を行使した有効な処分である旨抗争するので考えるに、<証拠>を総合すれば、申請人は佐賀大学一年在学中学業継続の意欲を失い、同大学に登校せず、昭和四六年二月頃学生運動中に知りあつた北九州市居住の日中友好協会商社員渡辺秀夫を頼つて同市に来り、同人方近くに居を構え、大成工業株式会社に約二ケ月間勤務した後被申請人会社に採用されたが、同年七月末日授業料滞納の理由をもつて同大学から除籍処分を受けるまで同年六月頃退学届を同大学宛郵送(不受理)した外学籍残留の状態の儘であつたこと、申請人は入社に際し経歴詐称等の事実があれば採用取消も止むをえない旨被申請人に誓約したこと、被申請人会社は在籍中の学生は絶対に採用しない方針であること、申請人は入社後住居等に関する被申請人の調査に対し必ずしも誠実で協力的な態度にでなかつたこと及び被申請人会社、就業規則第六条第四項は試用期間中社員として不適当と認めた場合被申請人は採用を取消すことがある旨規定していることが一応認められ、他に右認定を左右すべき証拠はないが、いわゆる試用期間中の従業員につき経歴詐称等信義則違反の事実が発覚した場合において、かゝる事実は、之が当該労使の信頼関係を将来において容易に回復できる性質程度のものに止まる場合を除き、原則として当該従業員の採用取消ないし解雇の事由となりうるものであり、信義則違反を理由とする使用者の解雇は試用制度の目的に適合する合理的範囲内の事柄に属すると解すべきところ、之を本件についてみれば、前示申請人の経歴詐称の態様、入社前後の経緯から明らかなとおり、申請人被申請人間の信頼関係は申請人の経歴詐称を含む前示一連の信義則違反の言動により今後容易に回復できない程度まで既に破壊されたことが認められるのであつて、果して然らば被申請人の前示解雇通告は正当有効な処分であり、なんら無効な点はないといわなければならない。

申請人は身分の点につき学籍残留は単に形式のみで実質的には申請人は学生ではないから雇用さるべき身分に欠けることはないとか経歴詐称の点につき之は過去の学生運動歴が露見することを怖れた結果の止むをえない措置であり、意図的には申告どおりの学歴による入社を希望したとか被申請人に実害を与えていないとか種々主張して解雇は無効である旨縷々強調するのであるが、右主張はいずれも労使の信頼関係の維持形成を軽視した独善的な主張であつて本件解雇を無効ならしめる理由となりえないもので、当裁判所の到底採用しがたいところである。

してみれば解雇の無効を主張する本件仮処分申請は結局被保全権利につき疎明がないことに帰着するから必要性について判断するまでもなく却下を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(鍋山健 内園盛久 須山幸夫)

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